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スローカーブを、もう一球

山際淳司はロマンチストだ。スポーツという、ときに非情すぎる場面を含むジャンルを風景写真のようにきれいに、かつシンプルに切り取ってみせる。決して成功者とはいえない選手ばかり登場する今作は、その精神がふんだんに盛り込まれていて、読後感はノンフィクションよりも詩集のそれに近い。

 

スポーツノンフィクションはドラマチックな書き方になりがちだ。きっと書いている本人が勝敗をわける場面の緊張感や勝利が決まった瞬間の興奮などを伝えたいと思っているからだろうが、試合内容がDVDで発売されたり、ハイライトがニュースで何度も放送される今、見た人(読んだ人)を現場にいるような気持ちにさせることにおいてはどんなに頑張っても映像には勝てないような気がする。

 

その点、この作品は場面よりも選手の生き様に重点が置かれていて、割と淡々と読み進められる。「江夏の21球」だけが1シーンを追ったものになっているが、その作品から感じるのは緊張感よりも、ある種のクールさだ。そして、このクールさこそ山際淳司が目指したスポーツノンフィクションの書き方ではないだろうか。ただし、ラストは必ずポエティックに終わるところには、山際の隠しきれないロマンチシズムがあらわれていると思うが。

 

それにしても山際の本はタイトルがうまい。今作も「、」の使い方が絶妙だ。

 

著者: 山際 淳司
タイトル: スローカーブを、もう一球