忘れないからね
わかれた男を追いかけてネパールまで旅立つ女と、その女を振り向かせるために、一緒についていく男友達の2人旅の物語。すぐそばに思いを寄せてくる男(イケメンで優しい)がいるというのに、それをお供の犬扱いして元彼に会いに行く主人公・千世子は、自他共に認める嫌な女である。
今どき、自分探しにネパールってどうよ?というツッコミも含めて、前半は読んでいてイライラするばかり。物語も回送と現在がぶつ切り状態で交互に配置されているのでわかりにくく、千世子の性格の悪さだけが浮き彫りになっている。
ところが、彼女と一緒に旅をしているイケメン男ヤスに視点を置いてみると、どんどんおもしろくなってくる。とくに中盤以降、宮沢賢治の詩のようにいつも笑っているヤスの本音が見えた瞬間からは、急加速! 「ヤス頑張れ!」という気になってしまった自分は、作者・狗飼恭子の術中にまんまとはまってしまったようだ。
読後感はそれなりに心温まるものだったが、すぐ平熱に戻った。「嫌な女なのに、イケメン男から好意をよせられる」という世の不条理に、急にムカついたから。
著者: 狗飼 恭子
タイトル: 忘れないからね