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天使の卵

人が生きる上で必要なもの第1位は恋愛であり、2位以下は何もない。そう信じてまいそうになるほど、この登場人物たちは恋愛を最優先事項として生きている。それ以外のことは書かれていないという理由もあるが、若い歩太や夏姫や春妃はともかく、20歳近い年の子供を持つ歩太の母親までが恋愛至上主義というのはおもしろい。


そんな登場人物しか出てこない作品を「リアリティーがない」と批判する人もいるだろうが、現実の社会では色恋沙汰ぐらいしかおもしろいことがないと思っている人は多いのではないだろうか。とくに政治的にも経済的にも嫌な話題ばかり出て大きな夢や希望を抱きにくくなった現在、身近なドラマチック体験としての恋愛に走る人が増えている気がする。その副産物としての韓流ブームであり、純愛ブームなのではないだろうか。


この作品がバブルがはじけた時期に発表されたのも、何か因縁があるような気がしてならない。もしバブル最盛期だったら果たしてここまでベストセラーになっただろうかと考えると、作者である村山由佳の時代を読む敏感さがうらやましくなり、思わず身もだえてしまいそうになる。まるで母親のあいびきを目撃した歩太のように。


もしかしたら自分は歩太と好みが似ているかもしれない。今カノの姉で年上で精神科医(服装はもちろん白衣)で未亡人、なんて人と出会ったら好きにならずにいられないだろ、おい。

著者: 村山 由佳
タイトル: 天使の卵―エンジェルス・エッグ