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彼岸の奴隷

読んだ後、気持ち悪くてたまらなくなった作品。たいがいの小説には悪口になる表現も、この作品のような暗黒小説にとっては誉め言葉となる。中でもこれほど派手にエロ、グロ、暴力を書いた作品も珍しいだろう。当然、登場人物も1人残らず頭のネジが狂っていて、さながら狂人の品評会のようである。


クエンティン・タランティーノの映画のようなえげつない場面もいくつかあり、読んでいる途中で口の中に嫌な味が広がった。一体どうして人は小説や映画になると暴力を描きたくなるのだろうか? SFやファンタジーと同じで現実にはほぼありえないことを書くことによって人の想像力を刺激し、より強いカタルシスを得るためか、または恋愛のように自分と投影することによって一種の欲求不満解消をしているからだろうか。


いずれにせよ、読む人を作品中に強烈に引き込む作用があるのは確かだ。催眠術をかけるとき一瞬相手を驚かすように、ショッキングなシーンとは人の心にエアポケットを作るのだろう。心の中に居場所が出来上がることを、「あるものにハマる」状態だとすれば、暴力シーンとは読者をハマらせるためのとても便利なツールなのかもしれない。


人呼んで「鬼畜系ノワール」だそうだ。いい意味で後味の悪さを味わいたいなら、この本である。




著者: 小川 勝己
タイトル: 彼岸の奴隷