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FINE DAYS

奇妙な物語というのは、実は普通に生活していても何度か遭遇するものである。ごぶさたの友人のことを思っていたその時に本人から連絡があったり、全く別の場所にいるのに恋人と同じような行動をしていたりと、その程度は別として「ありえない現象」が起きる。そしてそれは、時と場合によっては偶然という言葉で簡単に片付けたくないほど大きな意味を持つことがある。

 

 今作の4つの物語に登場する人たちは、みんな日常生活の中で奇妙な現象が起こった人ばかりである。作者の本多孝好はミステリーでデビューしただけあって、トリックにも似たビックリ体験を書くのがうまい。さらに今作では、それを日常生活にうまく溶けこませた上で、恋愛物語をメインに構成されている。山あり谷ありのラブストーリーはよくあるが、本多孝好はそれに加えて神隠しという超常現象もありなのだ。

 

作中、病院や死の設定が多いのが目につくが、それもご愛嬌だし、普通をはみ出した人間は五体満足 ではいられないと考えてしまえばいい。しかも、そんな暗くなりがちな言葉を使っているのに、読後感はどれもさわやかであり、しばらくは静かな気分でいられるのである。死ぬほど苦しい思いをして、それを乗り越えたからこそ心は晴れやかになるのだろう。昔、中島みゆきオールナイトニッポンで語っていた「十分辛い思いをして、人は幸せになれる」という言葉を思い出した。

 

乱暴な言い方でまとめるとするなら、大人の「O・ヘンリー短編集」というところか。そんな気分で気軽に読んで、しかも労力以上の感動を得られる。コストパフォーマンスの高い作品である。

著者: 本多 孝好
タイトル: Fine days―恋愛小説