逆境ナイン
日本漫画史上最高に熱い漫画家・島本和彦が書いた熱すぎる作品。逆境に立ち向かうことを無上の喜びとする全力学園野球部主将、不屈闘志が次々と迫りくる障害を乗り越えながら甲子園を目指すというストーリーである。
ここでいう障害とは、校長からの廃部通告や部員不足という野球漫画でよくあるものから、試合をドタキャンして女とデート(しかも、それを部員に見られる!)するというハードなものや、試合前に事故にあって記憶喪失になるという「タッチ」的なものまである。
ここで注目すべきは、その解決方法だ。すべてはド迫力の屁理屈でカタがつけられる。たとえば女とデートしたせいで仲間からひんしゅくを買った不屈を試合で使うために監督が言ったことは、
「それはそれ! これはこれ!」
記憶喪失になった自分に一言、
「記憶をなくしたのではない。過去を捨てたのです!」
これだけでも熱いのだが、試合になると、頭が沸騰しそうなほどクソ熱い内容である。何しろ9回裏だけで100点差をひっくりかえすのである。そのときの不屈のセリフがまたすごい。「100点差をつけられただけで、まだ負けたわけではない!」「なぜ飛行機が飛べるのか。それはすさまじいまでの抵抗があるから飛べるのだ」。スラムダンクで「あきらめたらそこで試合終了だよ」という名ゼリフがあるが、それを超えるスーパーウルトラポジティブである。
物語のラスト、逆境のたびに燃え上がっていた不屈はどのような境地に達したのか。ここでは詳しく書かないが、人間つき詰めると自らを思いのままに奮い立たせることができるのだということがわかる。
元気がないとき、強力な気付けとなる作品である。
現在は残念ながら絶版となっているが、今年映画化にともなって復刊が決定したようだ。ちなみに映画の主演は玉山鉄二。監督役のココリコの田中直樹がハマリすぎでおもしろい。