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OUT

自分から望んだことであろうが何かのはずみであろうが、社会は一度転落すると元へは戻れない。とくに犯罪がからんだ場合は、その現実を本人が受け入れる覚悟があるかどうかが生死の分かれ目になる。今作に登場する4人の主婦たちもそうだ。

 

深夜の弁当工場の同僚4人組がバラバラ殺人を実行する。そこにあるのは女性特有の強い仲間意識とすさまじいまでの生きる執念だ。これが男なら、潔くという偽善的な言葉に心を奪われてしまい、殺人を犯した時点で自首しているだろう。作者である桐野夏生は、「女性は日常的に料理をしているから、人体をさばくのもうまくできるはず」という発想からこの作品を思いついたというが、そんな日常レベルの目線だけでなく精神的な面からも"女性だからできた"ということが説得力を持って書かれている。

 

雅子に代表されるように、現実をクールに見つめることができて開き直れる女は強い。逆に、邦子のように自分の現状を認識できない女はもろいものだ。桐野は主要4人の中でも、とくに対象的なこの2人を通して、現代を生き抜くための要素を表しているのではないだろうか。

 

その要素とは、「自分を客観的に見ることができる力」である。何も女に限ったことではない。むしろ、この力は男が苦手とするジャンルである。一般に女が同世代の男を子供っぽいと思うのは、この点において、彼らが自分たちよりも劣っているからだろう。

 

それにしても人体解体のくだりは気持ち悪かった。血がタイルのすき間にこびりつくなんて、想像するだけで背筋がぞぞっとする。そういえば女は男より血を見るのに慣れているんだった。これも、女のほうがこの犯罪をスムーズに行えた要因になるはずだ。

 

著者: 桐野 夏生
タイトル: OUT 上 講談社文庫 き 32-3