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川の深さは

発売こそ「Twelve Y.O.」「亡国のイージス」に続く3番目だが、実質的な福井晴敏のデビュー作。しょっぱなから福井節は健在で、腐りきった日本を憂い、一人前の国家として自立するためには何が必要かなど、「亡国のイージス」や「終戦のローレライ」にも共通するテーマが盛り込まれている。

 

ただ、今作では、他の作品よりも恋愛色が強い。主要な登場人物には必ず女性の姿があって、その人を守ることが男たちの最大のモチベーションになっていくのだ。今でこそ男くささだけをゴリゴリと押し出している福井だが、当時はアマチュアということもあり、この作品で賞を取るために市場マーケティングをして、ある種の売れ線を狙っていたのだろうか。後半、緊迫した場面の中に妙に笑えるシーンがはさんであるのも、そんな理由からかもしれない。

 

「その場面は漫画っぽくて嫌い」という意見もあるだろうが、自分は結構気に入っている。「亡国のイージス」はもちろん、自分はまだ読んでいないが「Twelve Y.O.」ともつながっている部分があるらしいので、シリーズものとして楽しむと、さらにおもしろくなるかもしれない。

 

あえて苦言を言うとすれば、文庫版の解説でも指摘されているとおり、登場する女性が全員、男から見た理想の女像をなぞっていることだろうか。女性にしてみれば、「こんなヤツありえねー」とツッコミたくなるかもしれない。だが、昨年福井晴敏は結婚した。これを機に、もっと深くリアルな女性を書けるようになる……はずだ。

著者: 福井 晴敏
タイトル: 川の深さは