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砂の女

人間はきつく縛られると逃げたくなるが、ゆるく縛られると積極的に逃げようとしなくなる。「今すぐ逃げなくてもいいか」と思ってしまうからだろうが、それこそが人間の弱さなのだろう。近作で、突然拘束されて穴の底での生活を強いられた男は間違いなく、きつく縛られている。


唯一の救いは孤独ではなく共同生活をする女がいるという点であり、そこを「ゆるみ」と見るかどうかで穴から逃げたい気持ちの強弱が決まる。女で(女性の場合は男で)人生が決まるあたりが妙にリアルで怖くなる上に、「こんな人生もありだな」と一瞬だけ思ってしまった自分は、いつか穴の底のような生活がやってきそうで不安になる。



著者: 安部 公房
タイトル: 砂の女