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深夜特急

かつてのお化け番組「進め!電波少年」の人気企画、大陸横断ヒッチハイクの元ネタになった作品である。電波少年はバラエティー番組のためかなりの演出が入っていたが、こちらは一応本物の貧乏旅行だ。


まず驚かされるのが作者・沢木耕太郎の無謀な行動力だろう。友達とインドのデリーからイギリスのロンドンまで乗り合いバスでいけるかという賭けをしたのがきっかけで旅に出たというから、そうとうの山師である。その前にも雨の中、傘をささないで歩くのが好きだったとか、会社の入社式に行く途中で嫌になって引き返したとかいうアウトローなエピソードが語られていることから、元々そんな素質があったのだろう。


自分も国内の一人旅をやったことはあるが、これが結構楽しい。さみしいとか退屈だとか思うのは最初だけで、すぐ自分が漫画の主人公にでもなったような気になるし、それからは本当に自由気ままに行動できるようになる。自分を解放させてくれるから一人旅はおもしろいのだ。


一人旅というと失恋旅行などネガティブな面を思い浮かべる人もいるだろう。そのメカニズムを考えてみると、向き合う人間が自分しかいないという環境ではなかば強制的に自分を好きになるから、関係が終わってしまった他人を思う余地などなくなってしまいその結果心がナチュラルな状態に戻る、ということになるかもしれない。


誰もが群れたがった80年代、人それぞれの90年代を経て、今は個人主義の00年代といえるのではないだろうか。ひとりで飲みに行ったり食事をしたりするのを楽しむ「おひとり様」という言葉がマスコミで取り上げられたし、最近ひとりでカラオケに行く人が結構多くいるのだということを知った。


この作品は時代を問わず共感する部分を持っているが、もしかしたら正に今がこの作品の雰囲気にピッタリあう時代であり、そういう意味で「旬の作品」といえるはずだ。この風潮が変わらないうちに読んで欲しい。



著者: 沢木 耕太郎
タイトル: 深夜特急〈1〉香港・マカオ