くうねるよむみる

いいモノ、いいコンテンツ、いい人を知りたい

いちご同盟

どこかの雑誌が書いていたが、日本の小説でベストセラーを狙おうと思ったら、男を主人公にして恋人が死ぬ話を作るといいらしい。確かに「ノルウェイの森」も「セカチュー」も「今あい」も基本はそのラインである。どうしてそのパターンでなければいけないのだろうかと考えてみると、それは日本のマーケティング的な話につながっていくはずだ。


昔からヒット商品のメイン購買層は女性だ。それは、男より女のほうがミーハーなのではなく、女性のほうが「いいものはいい」と素直に認めるどん欲さを持っているからだろう。映画でもファッションでも、そして小説でも。これに対して男はへそ曲がりだからいい商品が世に出ても、つい興味ないふりをする。とくに少し流行ったものには露骨な嫌悪感を示し、それに群がる人たちを「見る目がない」と勝手に見下すことでひそかに自分のセンスのよさをアピールしたりする。


マーケティングという観点から見ると男は計算できない存在であり、選挙でいう浮動票のようなものなのかもしれない。逆をいえば、男性の気をひくことができるほどいいものを作れれば大ヒットが望めるということだ。気まぐれな男の興味をひくほどクオリティーが高いものを、女性たちが放っておくわけないし。だからベストセラーを作るためには男性を主人公にして男の共感を得るのが絶対必要条件となるのだろう。恋人が死ぬのは言うまでもなく悲劇を演出するためだ。


その法則は今作にもうまく組み込まれているが、それは一途だけど不安定な青春物語というオブラートにくるまれていて、読んでいると懐かしいやら切ないやらで何とも複雑な気持ちになる。このグチャグチャな気分こそが中学時代であり、その感じを思い出させるために青春小説があるとしたら、この作品はど真ん中をついている。隠れた名作である。




著者: 三田 誠広
タイトル: いちご同盟