くうねるよむみる

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Twelve Y.O.

いわゆる「ダイスシリーズ」の1作。世に出たのは今作が最初だが、シリーズとしては2作目にあたる。もはや福井節ともいえる憂国論は今回もくどいほどに熱く語られ、今を精いっぱい生きる者たちの姿に将来の希望を見るという結論も同じだ。ワンパターンに感じる人もいるだろうが、ファンにとってはこのノリがたまらないのであり、感覚的には同じ豆腐を今日はしょう油明日はめんつゆで食べるという感覚に近い。その素材が好きだから、どんな調理法でもおいしく食べられるということだ。
 
90年代後半というバブル景気直後の氷河期時代に書かれただけに、「日本はもうダメになってしまったんだ!」という主張を少し大げさに書きすぎているような気がするが、当時は日本人の多くがこれと同じレベルの不安や焦りを感じていたと思うし、やる気のない人たちが自分を正当化する逃げ道として「景気が悪い」という言葉が頻繁に使われていた。作家になる前は警備員をしていたという福井晴敏はそんな経済的ピラミッドの最下層にいる人たちの生の声を聴いていたのではないだろうか。
 
今作は福井の長編小説には珍しく、クライマックス後のエピローグが少ない。毎回そこでほてった頭をクールダウンさせるのが気持ちよかっただけに、その点だけがちょっと残念だった。もし新しいダイスシリーズを書くなら、短編でもいいので今作で生き残った登場人物たちのその後を書いてほしい。
 
 
 
著者: 福井 晴敏
タイトル: Twelve Y.O.