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閉鎖病棟

「住めば都」という言葉がある。たとえその場所が一般社会から隔離されていたとしても、たとえその場所のルールが普通の世界と全く違っていても、そこでの生活に慣れ、そこに住む覚悟を決めてしまえば快適に過ごせるようになるのだろう。

 

閉鎖病棟とは、いわゆる精神病院の入院患者が暮らす病棟のことだが、今作はそこで暮らす人たちの姿を静かにとらえている。そこには一般社会で当たり前のように存在するストレスがほとんど存在しない。純粋な子供のように日々を送る人たちの姿は、実社会で生きる人たちよりも幸せに生きているように見える。登場人物がどれも比較的自由に動けるレベルの症状だということもあるだろうが、読むほどに精神病患者に対する誤解や偏見はなくなっていき、考え方も感情も普通の人と変わらないということに気づかされる。

 

閉鎖病棟で暮らすと、あまりの快適ぶりに退院したくなくなる人がいるという。そこにいるのは心地よいのかもしれないが、壁に区切られた温室の中で暮らすのと、行こうと思えばどこまでも行ける荒野で暮らすのと、一体どちらが幸せなのだろう。作者・帚木蓬生は最後に起こる事件を通して、閉鎖病棟とある場所が実は似たようなものであるというメッセージを遠まわしに書いている。精神科医でもある作者だからこそ強い説得力を感じる。

 

 
著者: 帚木 蓬生
タイトル: 閉鎖病棟