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アフターダーク

夜、無性にさみしくなることがある。けれどそれは自分の近辺に誰もいないという孤独ではなく、闇の中で自分も他人も一緒になってしまい、自分以外のものがなくなるからなのではないだろうか。今作では別々の夜を過ごす人たちが何の脈絡もなく交錯する。まるで最初からつながるようにできていたようだ。夜が他者と1つとなることだとすれば、夜を迎える前の夕暮れは文字通り「逢魔時」なのかもしれない。

 

村上春樹を読むと、人間が生きていることに何の理由もないということがわかる。それに加えてこの最新作では、生きる意味なんか考えなくても時間は進み、日はまた昇るということがわかる。深夜のファミレスにいたマリがいざこざに巻き込まれても、時はたち、また同じような朝をむかえる。ただ、見た目にはわからないけれど、新しい朝には昨日とは違う何かがあることを、村上春樹は最後にほのめかしているのではないだろうか。いわゆるハルキワールドに似つかわしくないほどさわやかなラストシーンには、そういう意味があると信じたい。

 

いつもの長編小説のつもりで読むと肩すかしを食らわされるかもしれないので、ちょっと長い短編小説というつもりで読むのがオススメである。

 

 

著者: 村上 春樹
タイトル: アフターダーク