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六番目の小夜子

大部分の小・中・高校生にとって、学校が生きる世界の全てである。小さな教室に何十人もが密集して存在しているためにいろいろと特殊な事件が発生しやすいということは、社会に出て始めて気付くのだけれど、その中にいると、全くわからない。たとえば音楽室の怪談や部室に伝わる伝説など、閉鎖された社会だからこそ素直に信じられた噂ではないか。

この作品の高校にも、「小夜子伝説」と呼ばれる言い伝えがある。3年に1度、「小夜子」という仕掛け人に選ばれた生徒が、誰にも正体を知られずにあることを実行しなければならないという一種のゲームだ。

物語は「六番目の小夜子」に選ばれた雅子と、美しき転校生・沙世子を主人公に、ミステリーテイストな学園ドラマとして展開する。が、この作品、謎らしきことをいくつも提示するが、それがほとんど明らかにされないまま終わるのである。ミステリーとしてみるとほぼ反則だが、最後まで読んでも不思議と消化不良感はない。それどころか胸の中がシュワ~とするようなさわやかさを味わえるのである。要するにこの作品は優秀な青春小説として読むのが正しいのだ。

ただ、文化祭のシーンのサスペンスぶりは、一級品のミステリーでもなかなかお目にかかれないほど完成度が高い。この作品がNHKでドラマ化されたとき、その体育館の場面の緊迫感は正に心臓バクバクもので、見終わった後もしばらく頭がボーっとするぐらいだった。ちなみに、そのとき主演していたのは鈴木杏栗山千明山田孝之勝地涼松本まりかという、今考えると超豪華なキャストだった。




著者: 恩田 陸
タイトル: 六番目の小夜子